SLAUGHTER the second movement unfinished excutor volume.0;Then, I'm here. |
整然としながら雑然としているこの都市を、最初に砂漠と形容したのは誰なのだろうか。 随分と言い得て妙だ。確かにここは、砂漠でしかない。 あるいはコンクリートジャングルと言ってもいい。そんな言葉を思いついた人間は、きっと一生安泰だろう。 月明かりさえ消えた商店街を東に歩きながら、そう思った。 時刻は午前零時を回っている。 ほんの数年前まではそれなりの栄華を誇っていたのだろうモルタルのビル群は、どこもかしこもテナント募集中。 その建物の中にあって、唯一ここだけが、ここの地下だけが、未だに起動している。 目的ははっきりしている。何が行われているかはだいたい把握できている。これからどうなるかは、見てのお楽しみだ。 「配置完了しました」 側に寄ってきた肩幅の広いがっちりした体格の男が、頭を下げた。 「判った。すぐ行く。段取りは任せてくれるんだよね」 「それはもちろんです」 男が頷いて見せると、もう片方の影が笑った。 「ありがたいね。一人のほうが楽だ」 「けど、あんまり無茶しないでくださいね。必要なもの以外は壊したり殺したりしないでくださいよ」 「壊したり、は判らないけど、殺したりはしない。安心して」 「この前の考古学研究所での一件、覚えてますよね。あの請求額、いくらだったと思うんです。謝礼がトんじゃいましたよ」 「依頼するんだったらそれくらい覚悟しておけって言っておきな」 「姐さん‥‥」 「じゃ、行ってくる」 コートの内ポケットからワルサーP99を引き抜き、スライドを引く。 かちりと小さな音がして、手に吸い付く冷たい金属の感触が、身体を戦闘態勢へと移行させていく。 「すぐ戻るよ」 そしてその影は地下階へと降りていき。 数十秒後、銃声と悲鳴と断末魔の声が、その奥から微かに轟いた。 やがて、かつん、かつん、と階段を踏みしめる音がして、2分も経たないうちに、影は二人に増えて帰ってきた。 「地下にいた生存者はこの子一人だけ。あとはみんな死んでた」 「死んでた? 殺したんじゃなくて?」 「今は死んでる」 何か言いたげな男の視線を無視して、少女を別の仲間に受け渡した。 少女は、何か恐ろしいものを見たような蒼白な顔色をしている。 どうやら怯えられているらしいと思ったので、そっと声をかけてみる。 「ごめんね、大丈夫だった?」 「‥‥」 沈黙。 当然といえば当然だ。突然目の前で銃撃戦が繰り広げられて、あっという間に、それまで自分を陵辱しようとしていた男達が皆死んでいったのだから。 「心配しないでいい。ここはもう安全だから」 肩に触れようとしたが、それに気付いた少女がびくりと震えるのを見て、中空に伸ばした手を、苦笑混じりに軽く握った。 「今日のことは忘れるといい。‥‥しばらくは無理かもしれないけど、そのうち、きっと忘れる」 「姐さん、そろそろ」 少女の怯えた目に見つめられていたが、呼ばれて少女に背中を向ける。 その背中に、小さくかすれた、けれどはっきりした声が届いた。 「あの、」 足を止める。後ろの声が、ごくり、と喉を鳴らすのが聞こえた。 「ありがとう、ございました」 「‥‥どういたしまして」 「あの、お名前を‥‥」 少女が言いかけるのを、その隣で彼女を保護しようとしていたスーツの男が遮った。 「申し訳ないが、我々は性質上、名前を明かすことは――」 「いいじゃない、僕の名前くらい」 「ぼく‥‥?」 「ああ、うん。変かな。変だよね」 くるりと少女のほうへ向き直り、ぽりぽりと頬を掻く。 「一応女なのにね」 「いえ、そんな‥‥そんな、ことは」 その返事に微笑むと、まるで紳士がおどけるように、胸に手を当てて腰を曲げ、こう挨拶した。 「僕は、立花ゆき。職業は、私立探偵」 西暦2008年12月。 私立探偵立花旭が死んで、3年目の冬。 ゆきは、そのときからずっと、立花陽を探し続けていた。 |
to be continued |