ショートショート『ドラクエU劇場』(文字数1488)
舞台
ドラゴンクエストU
登場人物
ロラン(ローレシア王女)|サトリ(サマルトリア王女)|ルーナ(ムーンブルク王女)


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1.ラーの鏡(サトリ視点)

「これで元に戻れるよ、ルーナ」

 怯えた表情でぼくが持ったラーの鏡を見つめる子犬の頭を、優しく撫でる。
 もはや確実だ。この犬は、ルーナだ。ムーンブルクの麗しき姫。

「わん」

 頭を撫でられた子犬も、くすぐったそうにそう鳴いた。心なしか、嬉しそうだ。

「なあ、サトリ」

 ぼくの後ろに立っていた黒髪短髪の少女が、苦しそうに声を出した。

「どうしたの、ロラン?」
「早くしてくれねえか。オレ、腹減ったよ」
「はしたないよ‥‥」

 一応女の子なのに、そんな。
 何か解決法がないかな、なんて考えながら足元に擦り寄ってくる子犬を撫で、

「あ」
「なんだよ」
「わん?」

 突然声をあげた。ロランと子犬が二人揃ってじっと見つめてくるのへ、

「犬食なんてどうかな」
「わん!?」


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2.風のマント(ロラン視点)

「こりゃ凄いな」

 ため息混じりに足元を見下ろした。
 ドラゴンの角の最上階。
 かつて橋が架かっていたというその場所は、今や何もない。
 気が遠くなるような深さの絶壁を越えた向こうにある姉妹塔が、オレたちの到着を待っている。
 ようにはとても見えないくらい、強烈な風が吹いている。

「これを渡るの‥‥」

 サトリが怯えた声を出す。
 気持ちも判らんでもない。というか、怖い。怖すぎる、これは。

「あれを使えば上手くいくのよね」

 ルーナが取り繕うようにそう言うけれど、こりゃ自信も無くなるっての。

「まあ、どっちにしろ、行くしかねえって」
「ほ、ホントに?」
「今さら渋っても仕方ないだろ。これ越えなきゃ先進まねぇんだからよ」

 仲間内の誰か一人が怯えていれば、こっちは逆に冷静になれる。
 そういう意味で、戦闘以外じゃ未だにのん気で怖がりのサトリという少女は、ありがたかった。
 そんな様子を、ルーナは苦笑交じりで眺めている。この女には怖いとかそういう感情がないのか。

「犬になるよりマシよ」
「ごめんなさい」

 にっこりと後光が差すような笑顔でそう言われてしまっては、オレとサトリに勝つ術はない。

「さて、じゃあ、行くとしますか」
「うう‥‥」
「犬になったつもりで飛ぶといいわ、サトリ」

 三者三様の、かみ合っていない会話。
 まあ、これもこのパーティの味ってやつだ。

「広げるぞ。‥‥よし、これでいいか。行くぞ、せーの」
「あっ!」

 飛ぶ瞬間。
 サトリが悲鳴みたいな大声をあげた。
 けれど次の刹那には、既に三人の身体は仲良く空中へ。

「なんだよサトリ、驚かすなよ」
「い、いや、でも‥‥」

 サトリが怯えて見つめる方向にルーナがふと目をやり、

「穴が空いてる」


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3.世界中の葉(ルーナ視点)

「ったく」

 ロランがあからさまにため息をつく。
 この子、思慮が足りない割にため息ばかりだ。

「ごめん」

 布団で顔を隠して、目だけちらりと出した姿で、サトリが謝る。
 正直、可愛い。

「まあまあ、いいじゃない」

 これもハーゴンの仕業なのだとしたら、いよいよ敵はこちらを認識してきたというわけで。
 わたしは、自分を犬にしたアホ神官をいつブチのめせるのかと、内心わくわくしているのだ。

「じゃあ、ちょっと寝てろよ。オレらで色々調べてみるからさ」
「ごめんね、ロラン、ルーナ‥‥」
「弱気な声出すんじゃねぇよ」

 長い間男の子として育てられてきただけあって、ロランの口ぶりは男っぽい。
 セリフだけじゃ男か女か判らないくらいだ。
 そんなロランは、ぶっきらぼうにそう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
 残されたわたしも、ロランの後をついていこうと椅子から立ち上がり、

「ねえ、ルーナ」
 弱弱しくわたしを呼ぶ声に立ち止まった。

「なに、サトリ?」
「うん。えっと、その‥‥」

 最近、戦いをたくさん積んでかっこよくなった。
 なんて、女の子に言うのは褒め言葉じゃないかもしれないけど。
 そんなサトリがこんなふうになよっとしていると、昔のことを思い出す。

「ぼくなんか、置いていってくれてもいいのに。どうして助けてくれるの?」
「‥‥」

 なんでそんなことを言うのだろう。
 わたしはぽかんとサトリを見つめた。

「なんで?」
「え?」
「なんでそんなこと言うの。あたしたち、そんなに冷たい仲だった?」
「ルーナ‥‥」

 無意識のうちに言葉に怒気が含まれていたらしくて、サトリが怯えた表情をする。
 それを見たわたしの頬が緩む。

「いいわ、話してあげる。一度しか言わないから、ちゃんと聞いてね」
「うん」

 真剣な顔で頷くサトリに、わたしは言った。

「イベントが先に進まないから」
「イベント?」
「フラグ立たないし」
「フラグ!?」



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