だい1わ じこしょうかい |
まほめっタンは、イスラム教をはじめたおんなのこ。 メッカという町で、くらいしゅ族っていうたくさんの家族の中で生まれたの。 でも、まほめっタンが生まれる前に、おとうさんは死んじゃった。 おかあさんも、まほめっタンを生んですぐ死んじゃって、とっても悲しかった。 まほめっタンをかわいがってくれた優しいおじいちゃんも、やっぱり死んじゃった。 まだ小さなおんなのこなのに、まほめっタンはいつもひとりぼっち。 でも、くらいしゅ族のみんながまほめっタンをかわいがってくれてたから、 ちっともさびしくなかったよ。 しんせきのおじさんのうちに預けられたまほめっタンだけど、 おじさんったらちょっとおかしな趣味を持っていて、 子供のまほめっタンにいろんないたずらをしてくるの。 だからまほめっタンは、はやくオトナになりたくて、お仕事をはじめるんだ。 そのお仕事っていうのが、たくさんのお店をつれてあっちこっちを旅する、 「きゃらばん」っていう仲間のリーダーだったの。 まほめっタンは小さいけど、みんな優しくしてくれるから、お仕事も大変だけど、 がんばれたんだよ。 まほめっタンの時代はおともだちどうしの結びつきが強くって、 だから、知らないひととかはいじめちゃったりすることが多かったんだ。 まほめっタンがお仕事していたきゃらばんも、仲のよくない子が周りにたくさんいて、 みんなまほめっタンのきゃらばんをいじめようとしてくるの。 でも、さいしょはけんかしても、いつかきっとおともだちになれるの。 だからまほめっタン、がんばったんだよ。 ときどきはこわくて泣いちゃうこともあるけど、でもまほめっタンが泣いちゃうと、 いじめてきてた子たちもごめんねっていってあやまってくれるの。 そうやって、たくさん大変なことあったけど、がんばって仕事してたんだ。 そしたらね‥‥。 |
だい2わ うんめいのであい |
「あらあら、あなたがうわさのまほめっタンちゃん?」 「ふぇ?」 ひさしぶりにおうちに帰ってきてのんびりしてたら、知らないおねいさんが、 うちにやってきたの。 「おねいさん、だれ?」 「私? 私はね、ハディージャっていうの。はじめまして、まほめっタンちゃん」 「はでぃーじゃおねいさん?」 「そう、そう」 おねいさんは、とっても幸せそうな笑顔をうかべて、こくこくと首をたてにふっていた。 そしていきなり、まほめっタンに抱きついてきたの。 「きゃうー、かわいいわー、まほめっタンちゃん☆」 ぎゅむ。 「ふぁ? も、もが、むがー」 あやうくちっそくして死んじゃいそうだったけど、おねいさんは離してくれた。 おねいさんはまほめっタンのかたをつかんで、まっすぐ目を見つめてきたの。 「お、おねいさん?」 「ねえ、まほめっタンちゃん」 「ふぇ?」 「おねいさんと一緒に、おねいさんのおうちに住むつもり、ないかな?」 「ふぇっ!?」 おねいさんはなんと、いきなりそんなことをいったの。 「大事にするから。きっと幸せにするから。うちに来て。ね、まほめっタンちゃん」 「‥‥」 さすがにびっくりしたけど、でも、おねいさんは本気だった。 それに、まほめっタン、おうちじゃおじさんとかおじさんの子供とかにいじめられて、 ほんとはちょっとイヤだったんだ。 だから、うんってへんじした。 「うん、いいよ。おねいさんと一緒に住む」 「ほんと!? ほんとにいいの!?」 「うん!」 「きゃあ、やった! ああ、こんな幸せなことってないわ・・・☆」 こうして、まほめっタンとはでぃーじゃおねいさんとの、 ふたりのなかよしな生活がはじまったの。 |
だい3わ たくさんびっくり! |
それがね、びっくりしたの。 はでぃーじゃおねいさんってば、とってもお金持ちだったの! まほめっタンは、おねいさんのおうちにお引っ越ししてからもお仕事つづけたんだけど、 「きゃらばん」ってお金がかかって、大変なんだよ。 でも、そのお金をおねいさんが出してくれて、いろんなところにお店出しにいけて、 みんなとってもよろこんでた。 よかった、よかった♪ それでね、まほめっタンとはでぃーじゃおねいさんが住んでる町のちかくに、 ひいら山っていう山があるんだけど、まほめっタンは、そこにピクニックに行ったんだ。 ひさしぶりにお出かけできて、とっても楽しみだったの。 でもね‥‥。 めずらしいどうくつを見つけて、ちょっと怖かったけど入ってみることにしたの。 まほめっタン、やんちゃな女の子っていわれてたんだから。 そのどうくつ、とっても涼しくて、ついついいねむりしちゃったの。 そしたら、いきなり耳もとで、だれかがおっきな声を出したの! 『詠め!』 「わひゃあああ!?」 ばって目をさましたら、どうくつのなかにはまほめっタンしかいない。 こわくなって、いちもくさんに家にかえったの。 「おねいさぁん!」 「あら、まほめっタンちゃん。どうしたの、ピクニックは?」 「ふぇぇ‥‥怖かったよう〜」 「え? え?」 おねいさんは首をかしげていたけど、まほめっタンが泣きやむまで、 まほめっタンの頭をなでてくれてたんだ。やさしいおねいさん☆ 「それで‥‥なにがあったの?」 まほめっタンがそのことを話したら、おねいさん、なんだかすごくびっくりしてて、 まほめっタンをおねいさんのおともだちのところに連れていったの‥‥。 |
だい4わ かみさまのことば!? |
「ちょっといい?」 「あん?」 おねいさんがまほめっタンを連れてやってきたのは、 おねいさんの古くからのおともだちの家。 その、おねいさんのおともだちである女のひとは、おねいさんを見るなり、 「珍しい来客だな」 「せっかく来たのに、相変わらず失礼なヤツ」 「うるさいな。用件は?」 「ん? あ、そうそう」 おねいさんは、まほめっタンをぐいっと前に突き出したの。 「ふ、ふぇ?」 「この子は?」と、おともだちがいいます。 「私の恋人☆」と、おねいさん。・・・って、え? え!? こ、こいびと!? 「ふうん。節操がないことだな」 「そんなことより、ほら、まほめっタンちゃん」 「ふぇ?」 「何があったのか、この女に話してみて?」 おねいさんのおともだちは、ちょっと冷たくてあいそうがないけど、 とってもたくさんの本を読んでて、頭がいいんだって。 まほめっタンがあのときのひいら山のことをお話しすると、 おともだちの顔色が見る見る変わっていったの。 「‥‥それは本当か」 「ふぇ? う、うん、ほんとだよ?」 「‥‥なるほど」 といって、おともだちは考えこんじゃった。 しばらくおともだちは何もしゃべらなかったから、まほめっタンもおねいさんも、 ただぼんやりとその横顔を見てたんだけど、おともだちはいきなり、「なるほど」って。 「なるほど? 何が?」とおねいさんがいうと、おともだちは、 「そういうことか」って、ひとりで納得しちゃった。 「ちょっと、何がそういうことなの? 話しなさいよ」 おねいさんがちょっといらいらしてる。 ふだんは優しいんだけど、ときどきこうやって怒ることがあるんだよね‥‥なんて、 考えてたら、おともだちがこんなことをいったの。 「それは神託だ」 「神託?」 おねいさんが首をかしげた。まほめっタンも首をかしげた。 しんたくってなんだろう? そしたら、おともだちが説明してくれた。 「かつて『ゆだや』というファンクラブ集団を率いた、もーせタンも似たような啓示を受けたことを言っている。 つまりこれは、神からの啓示だ」 「ふぇ? かみさま?」 そうだ、って、おともだちはうなずいた。 でも、かみさまっていったら、メッカの町のかあば神殿にたくさん並んでる、 いろんな町のいろんなかみさまのことじゃないの? かみさまのかっこうをまねして作ったお人形とかが、おいてあるよね。 「いや、その神ではない」 「違うの? じゃあどういうことよ」おねいさんがつめよる。 「まあ、そんな焦るな。まだまだこれからだ」 「これから?」 「そう。これからだ。くっくっくっ‥‥」 おともだちのちょっとぶきみな笑顔にさよならをいって、まほめっタンとおねいさんは、 おともだちの家から出ていった。 「何よアイツ‥‥結局なんもわからなかったじゃない。ねえ?」 「ふぇ?」 そう、なにもわからなかったの。 また同じようなおっきな声が聞こえるときまでは‥‥。 |
だい5わ えっ? てんしさまなの!? |
まほめっタンは、ちょっとこわかったけど、またひいら山に行くことにしたの。 あのときのおっきな声が、やっぱり気になるから。 そしたら、またあのどうくつでついついいねむりしちゃって‥‥。 『詠め!』 「わひゃっ!」 『ああ、待て待て、逃げるな』 「ふ、ふぇ?」 『この前は一言声かけただけで逃げやがって、話もできなかったではないか』 ぼんやりと目をさましたら、なんと目の前に、天使さまがいたの。 「天使さま!?」 『おう、よく知ってるな。私は大天使ジブリール。お前に神託を預けに来た』 「じ、じぶりいるさん?」 『ジブリールだ。さて早速だが、話を聞いてくれるか?』 「う、うん‥‥」 あのとき、おねいさんのおともだちが、 「あまり怖がってはいけない。その言葉は、君を幸せにしてくれる」 っていってたから、今はあんまり怖くない。 それに、この天使さま、金色のかみの毛がきれいなんだもん。 『では告げる。詠め。神の言葉を、人々に伝わるように詠むのだ』 「かみさま‥‥?」 『そう、神だ。唯一絶対なる神アッラーが、お前を預言者に選んだ』 「あっらー‥‥よげんしゃ‥‥?」 『‥‥ちょっと難しすぎたか』 「あ、あう〜‥‥」 天使さまがこまったようにふうって息をはいた。 まほめっタンはちょっとだけはずかしくなった。だって、 「だって、天使さま。わたし、文字なんて読めないよ」 『心配するな。神の言葉は、お前の心に直接降ってくる。そうしてこそ神の奇跡だ』 「そ、そうなの? 読めなくてもへいき?」 『ああ、平気だ』 「ほんとにほんと?」 『‥‥本当だ』 「ぜったい? うそつかない?」 『‥‥‥‥絶対だ。嘘はつかない。こっちは神だぞ』 「じゃあじゃあ、ゆびきりげんまんしよ!」 『‥‥‥‥‥‥』 ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたらはーりせーんぼんのーます。 ゆびきった! 「よかった〜☆」 まほめっタンがほっとしてると、天使さまは『では、よろしく』とさいごにいって、 まほめっタンの前からいなくなっちゃった‥‥。 それからまほめっタンは、おうちに帰って、おねいさんにそのお話をしたの。 「なるほど、神様か。‥‥どうしたの、怖い?」 「うん、ちょっとだけ‥‥」 まほめっタンが泣きそうになったとき、おねいさんはぎゅっと抱いてくれる。 このときも、おねいさんは優しく笑って、まほめっタンを抱きしめてくれた。 「大丈夫。心配しないで。きっと神様は、ずっとまほめっタンちゃんを見てたのね」 「ふぇ?」 「まほめっタンちゃんが素直でいい子だから、神様が祝福してくれたのよ」 「‥‥そっか」 だからまほめっタンは、まほめっタンを守ってくれたかみさまにお礼がいいたくて、 かみさまのことばをみんなに伝えることにしたんだよ。 |
だい6わ それから‥‥。 |
それから、いろんなことがあったよ。 みんながまほめっタンのお話を聞いてくれたわけじゃないから、けんかもたくさん。 まほめっタンはけんかはきらいだけど、おともだちは「あるていどはしかたない」って。 だから、このあとのお話はあんまりしたくないの。 はでぃーじゃおねいさんもいなくなっちゃうし‥‥。 おねいさん‥‥どうしてまほめっタンをおいて、いなくなっちゃったの? さびしいよう‥‥悲しいよう‥‥。 「あ、あの‥‥ま、まほめっタン‥‥」 「ひっく、ぐす‥‥ふぇ?」 ひとりでぐしぐしと泣いていたまほめっタンに話しかけてきたのは、 まほめっタンとおなじくらいの、ちっちゃなおんなのこ。 「だれ‥‥?」 「それよりも、これ」 って、そのおんなのこは、まほめっタンにきれいなハンカチをさしだしてくれた。 それをもらったら、むねがいっぱいになって、ますます泣いちゃって‥‥。 「あたし、アーイシャ」 「あーいしゃ、ちゃん」 「うん。なかよく、しよ?」 「うんっ!」 こうやって、まほめっタンには、新しいおともだちができたの‥‥。 |
‥‥‥‥つづく? |